現実主義の伯爵令嬢はお伽話のプリンセスと同じ轍は踏まない
グランサム公爵邸に来てから、グレースはヴェネディクトが知らない男性のように感じる事が少なくなかった。
二人だけでいる時はそうでもないのだが、使用人に対する態度やグランサム公爵と仕事の話をしている時の様子は立派は紳士そのもので。グレースが知っているはずの『年下の幼馴染』と同一人物に思えなかったのだ。

それが、今はまるで昔みたいだ。よく分からない理由で拗ねてグレースを困らせるヴェネディクト。ずっと前から変わらない気安い会話。

「ふふふっ。なんだか笑ったらお腹空いちゃった。ね、ヴェネディクトもお腹空かない?私、緊張しててほとんどお茶会で食べてないの」

「なんだよ、もう。でも確かに僕もお腹空いたな。甘くて小さいお菓子ばっかりだったからね」

モヤモヤとした感情が残ったお茶会だったけれど、グレースは行ってよかったと、この時初めて思った。だって、ヴェネディクトはやっぱりヴェネディクトだと安心出来たから。
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