シャボン玉の君に触れる日まで
夕方、再び扉が開いた。
先生かと思ったが違う。
白いブラウスに紺のネクタイとスカート。
後ろで高く結ばれた髪には、紫色の飾りがついていた。
「こんにちは。えっと…片倉聖夜(カタクラセイヤ)くんだよね?」
昨日の女だ。その人はゆっくりと近づいて来て、隣の椅子に座る。
「…なんで俺の名前知ってんの」
「この部屋の入口に書いてあったから…」
「ああ。…よく入れてもらえたな、名前も知らないのに」
彼女は少し考えるようにして、扉の方を横目で見る。
「んー。みんな大抵知ってる人だから。えっとね、藤咲ユカ先生っていう女性の先生知ってる?」
「まあ。俺の担当医だし」
「その人、親戚なんだ。だから昨日、ユカちゃんに事情を説明して、玄関付近に向かってもらったの。聖夜くんが、看護師さんたちに怒られてるんじゃないかと思って」
道理で藤咲先生には事情を聞かれなかったわけだ。
看護師たちを宥めて、ただ早くシャワーを浴びてきなさいと言われただけ。
ぼうっとしていて、なぜ理由を聞かれないのかなんて考えなかった。