シャボン玉の君に触れる日まで
「そうか。まあ…ありがと。で、お前は誰?」
一方的に知られるだけ知られて、俺は目の前の女のことを何も知らない。
昨日俺の自殺行為を止めたやつのことを。
「あ、私は藤咲エリっていうの。エリでいいよ。二駅向こうの学校に通ってる高校二年生!聖夜くんは?」
聖夜くんは、と聞かれても俺の名前をもう既に知ってるじゃないか。
「俺は死にかけの中三」
そう言うとエリの眉間に少しシワが入った。
だがすぐに口角を上げ、大きな瞳が細く垂れる。
「中学三年生かぁ。じゃあ受験生だ!もう十二月だし、どこの高校受けるか決まってないの?」
俺はエリから目線を逸らし、無意識に布団の端を握った。
未来なんてないやつに、どうしてそんなことを聞けるのだろう。
「決まってると思うか?死にかけって言ってんだろ」
「でも、実際いつ死ぬかなんてわからないよね」
急に低い声になった。その目差しは真面目で、どこか悲しい。
「楽しみにするのが怖いんでしょ。それが消えると思うから考えたくないんでしょ」
何かに頭を殴られたような気がした。
自分でも無意識にしていたことを言われた。
図星だったんだ。