シャボン玉の君に触れる日まで
「…そうだよ。でもそれの何が悪いって言うんだよ!!死にかけたこともないくせに!」
俺はずっと放置されていたコートをエリに投げつけた。生乾きの臭いが鼻腔をくすぐる。
「そんなこと言いに来たのなら帰れよ!」
エリは驚いていたと思う。
瞳を潤わせ、コートを手に持ち立ち上がった。
だが、扉に手をかけたところで小さな声が返ってくる。
「私ね、家族がいないんだ」
だから何?と聞き返すこともできた。
でもそうしなかったのは、小さく震えているのがわかったから。
「お母さんもお父さんも…寿命で死んじゃった。だから今はユカちゃんと二人で暮らしてる。もう…私の目の前で、誰も死んで欲しくない」
だから、自分は長く生きられないと言ったのだろうか。
それが運命だと、受け入れたのだろうか。
エリはまた、ぽつぽつと話し出した。
「聖夜くんは、お母さんやお父さんが自殺したらどうするの?悲しくないの?本当はわかってるんじゃないの?私は…嫌だ」
どう答えることが正解なのだろう。
もう自殺しないって言えばいいのか?
でもそれはその場凌ぎの偽りであると思われるかもしれない。