シャボン玉の君に触れる日まで
するとエリは振り返り、紫色の飾りがついた髪ゴムを外してみせた。
色素の薄いくせ毛が、ふわりと広がる。
「これ、ちりめん紐で作った藤の花。藤の花言葉には、決して離れないって意味があるの。お母さんが死ぬ数日前に、渡してくれたの」
ほどいた髪をまたまとめ、縛った。
豆粒くらいの花たちが、小さく揺れる。
エリは息を吸い、再び口角を上げて俺を優しく見つめた。
「聖夜くんは、生きてるの。もうすぐ死ぬとしても、今は生きてるの。
未来に希望を持つことで、気が前を向いて長生きできるんだって。
怖いって普通は思うよね。私も、死は怖い。
でも、私は誰かに生かされてるから。その人のために私は生きるの。死ぬ最期の瞬間まで未来を夢見るの」
力強かった。
意見を突き通そうとしているのではなく、ただ純粋に自分の信念を語るエリは、窓から差し込む夕日に照らされ、輝いて見えた。
「俺も…夢見てたんだよ」
エリは格好良かった。
話せば俺も、あんな風になれるかもしれないと思った。俺の中に閉じ込めた未来を。