シャボン玉の君に触れる日まで

「それでも、大好きなんだよね」

エリの目いっぱいに溜まった涙が、瞬きとともにこぼれ落ちた。


「よく頑張ったね。ずっと努力してきたんだよね。結果に出なくても、その力はきっと聖夜くんの中に残ってる。聖夜くんの心は、どんな試合よりも優勝だよ」

エリには、不思議な力があるのかもしれない。

何かを守るためにできた心の壁が、ガラガラと崩れ落ちる気がした。

エリも、周りのベッドも、部屋に差し込む夕日も、全部がボヤけて、頬に何かが伝い、手に落ちる。

ガラスのような涙だった。

「…大好きだった。誰よりもサッカーが好きだ。こんな状態になっても、嫌いになんてなれない。…もう一度、サッカーがしたい」

何度も涙を振り払った。それでもそれは、止まることを知らなくて。

エリがポケットからハンカチを取り出して差し伸べた。

「今度の土曜日、学校説明会があるの。そのあと、校舎見学で色々回れるから、部活とか見てみない?うちの学校、結構サッカー強いんだよ」

差し伸べられた物を、今度はしっかりと受け取った。

エリに涙を見られないように目を全部それで隠す。

「でも俺、もう運動しちゃダメなんだよ。入院も、ほとんど意味がないけど母さんが日中は家に誰もいないからって無理やり頼んで。学校にも行くなって言われてる…」

真っ暗な視界を溶かすように、エリが片手をそっと握った。

温かかった。

ハンカチが片目部分だけ、はらりと落ちる。

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