シャボン玉の君に触れる日まで
「緑川くん!この子に見学させてあげていい?」
エリが、一人の背の高い男子に声をかける。
人柄の良さそうなその人は、快く許可してくれた。
「君、経験者?体験してみる?」
「あ、聖夜くんはちょっと…体が弱いから見学で!」
エリが代わりに答えてくれた。
緑川先輩は「そうか」といい、再び練習を始める。
一人一人が、見事なテクニックでボールを操っていた。
冬の寒さなんかそっちのけで、息が白く立ち上り、額の汗が煌めく。
「リフティングくらいならできます」
気がついた時には、勝手に口が開いていた。
「おお、じゃあしてみるか?ほい!」
投げられたサッカーボールを、一度膝で蹴りあげて、自分の足元に落とした。
「え、でも、聖夜くん…」
エリが心配そうな声色で、ボールと俺を交互に見る。
俺だって、駄目だとわかっていた。
それでも、久々に触れたボールは悪魔の囁きのごとく、俺の理性を壊す。
「ちょっとくらいなら大丈夫」
エリに一言そう言って、つま先を使い、ボールを足の甲に乗せた。
パッと足を動かし、膝の上で蹴り上げる。
何度も、何度も。
空にのぼって、一直線に落ちてくるそれを、もう一度同じように蹴ることが、たまらなく楽しかった。
「上手いじゃん。えっと、聖夜だっけ?これからゲームするけど、入ってみろよ!」
「やります!」
ただ純粋にサッカーを楽しんでいた頃のように、なんの抵抗もなく返事をする。
すぐに体操服を借りて、部室で着替えた。
パチパチと音を鳴らすシューズが、走れと急き立てる。
もう止められない。
楽しくて、幸せで、体が熱くなる感覚が気持ちよかった。