シャボン玉の君に触れる日まで
「まだまだだな」
息を切らしてかがみ込む俺に、緑川先輩が声をかける。
ゲームでは、先輩たちからほとんどボールを奪えなかったし、しばらく運動していなかったため、すぐに息が切れた。
俺は掠れた声で「はい…」と呟く。
「でも、センスは悪くない。うちの学校に入って練習すれば、絶対レギュラー入りできると思うぞ」
緑川先輩の言葉に、ドクドクと脈を打っていた心臓が、より一層速くなった気がした。
酸素を補うのに精一杯だった俺は、何も言えなかったけれど、顔は笑っていたと思う。
「聖夜くん、そろそろやめておいた方が…」
遠慮がちに、俺の名を呼ぶ声がした。そこでやっと、自分が運動をしてはならなかったことに気付く。
ああ、やってしまった、と思った。
けれど、後悔とは少し違った感情だった。
やってしまったと思うくせに、何故かスッキリとした。
「じゃあ俺はこれで…。ありがとうございました」
エリの言葉に従い、先輩たちに挨拶をして部室に向かった。
汗の染み付いた体操服と靴を脱ぎ、丁寧に畳んで並べる。
「これが…最後かな」
さっきの楽しさと、最後かもしれない寂しさで、感情が麻痺していた。
部室に転がっていたボールに触る。
それはもう使われていないようで、泥が乾いて砂となり、へばりついていた。
「…ありがと」
何を思ってそう言ったのか、よくわからない。
ただそう呟いて、部室を後にした。