シャボン玉の君に触れる日まで
グラウンドや体育館からかなり離れたところに、ひとつの大きな建物があった。
そこに入ると、すぐ目の前にガラス張りの窓があり、中が見える。
ライトに照らされた水の中を泳ぐ人、レーンの端でタイマーを測る人、準備体操をする人がいるそこは、屋内プールだった。
「じゃあ、君はここで待ってて」
部長さんはそう言って、その先にある更衣室にエリを連れていった。
水泳部か。そういえば、水泳部はかなりの実績がうんたらかんたら、言ってた気がする。
確かに、これなら冬でも泳げるから実績は上がるだろうな。
そんなことを考えていると、部長さんが一人で戻って来た。
「ごめんねー。聖夜くん…だっけ?君のおかげで、なんとか参加してもらえたよ。あの子、全然部活来なくて困ってたんだよね〜。まあ、私が無理やり入部させたようなもんなんだけど」
ペラペラと話す部長さんに、俺はただ「はぁ」と返した。
すると部長さんはガラスの向こうを指差す。
「見てほら!あれエリだよ。全然来ないくせに、めちゃくちゃ速いから見てて!この前も大会で優勝したんだから!」
プールサイドから一人、他と違って、細くて白い体つきの女子が、水泳帽に濡れた後れ毛を入れていた。
しなやかな手つきが、美しい。
ぼうっと見つめていると、彼女の両腕の間から、目が合った。
少し恥ずかしそうにこちらを睨んで、水の中に消える。
「あ、エリが可愛いからって変な目で見ちゃだめよ〜?」
ニヤニヤと笑った部長さんが下から覗き込んできた。
変な目?変な目って…。
「いや、そんな目で見てませんから!」
「そお?そういえば、君はエリとどういう関係なの?彼氏?」
「そんなわけないじゃないですか!ただの知り合いです!」
何故か焦って、必死に否定する。
走ってもないのに、脈がまた速くなった。