シャボン玉の君に触れる日まで
駅から歩いて約十分。
病院も通り過ぎ、小道を進んで湖についた。
海風同様の冷たい風が、服の上から全身に突き刺さる。
砂浜には赤くなった浅い波が、寄せては返してを繰り返していた。
真っ赤な太陽が、もう少しで水に溶けていきそうだった。
「はい、聖夜くん」
そう言ってエリが手渡してきたのは、懐かしい手のひらサイズのボトルと、緑色の吹き棒。
「シャボン玉しよう?」
「…は?」
俺は、エリの考えていることがさっぱりわからなかった。
なんでこんな歳になってまで…しかもこんな時期に…てかなんでこんなもの持ってんだよ。
そう思ったけれど、それは決してマイナスの意味でなく、行動の読めないエリが面白くて可愛かった。
彼女は何も言わずにボトルの蓋を開け、吹き荒れる風の中、シャボン玉を飛ばす。
「ここでシャボン玉を作るとね、風にのって病院まで届く時があるんだよ。窓から見えたことない?」
エリはまた、小さな泡を作り出す。
でも、それのほとんどが、病院に届きもせず無念に消えていった。