シャボン玉の君に触れる日まで
突然、強い風が吹いた。
俺は風にあおられ、砂浜の上に尻もちをつく。
エリが慌てて駆け寄ってきた。
「…そうか。俺は…目に見えない何かを、残せるのかな」
砂の上に、膝を三角に曲げて座る。
手の内にある、渡されたシャボン玉のボトルを見つめていると、エリも同じように隣に座ってきた。
「残してるよ。ちゃんと、私の心の中に」
顔を上げると、夕日がもうほとんど溶けおちていた。
太陽の光が眩しくて目を閉じると、瞼の裏にいくつもの太陽が映っている。
また風が横から吹き、俺を倒す。
それに抵抗せず、押されるがままエリの肩にもたれ掛かった。
少しだけピクリと肩が持ち上がる。
柔軟剤と湖の香りが、俺の瞼をさらに重くした。
「なんか…エリといると安心する…かな」
人は安心したり癒されると眠くなるらしい。
エリの存在に癒されているのだと、気付かぬ間にそれほど好きになっていたのだと知った。
冷たい風が二人を襲う。浅い波の音だけが子守唄のごとく響いていた。