シャボン玉の君に触れる日まで

突然、強い風が吹いた。

俺は風にあおられ、砂浜の上に尻もちをつく。

エリが慌てて駆け寄ってきた。

「…そうか。俺は…目に見えない何かを、残せるのかな」

砂の上に、膝を三角に曲げて座る。

手の内にある、渡されたシャボン玉のボトルを見つめていると、エリも同じように隣に座ってきた。

「残してるよ。ちゃんと、私の心の中に」


顔を上げると、夕日がもうほとんど溶けおちていた。

太陽の光が眩しくて目を閉じると、瞼の裏にいくつもの太陽が映っている。

また風が横から吹き、俺を倒す。

それに抵抗せず、押されるがままエリの肩にもたれ掛かった。


少しだけピクリと肩が持ち上がる。

柔軟剤と湖の香りが、俺の瞼をさらに重くした。

「なんか…エリといると安心する…かな」

人は安心したり癒されると眠くなるらしい。

エリの存在に癒されているのだと、気付かぬ間にそれほど好きになっていたのだと知った。


冷たい風が二人を襲う。浅い波の音だけが子守唄のごとく響いていた。


< 32 / 52 >

この作品をシェア

pagetop