シャボン玉の君に触れる日まで

「────って言ったのに…」

モヤに包まれたような、くぐもった声が聞こえた。

重い瞼を必死に持ち上げ、目を擦る。

三メートルほど離れたところに、エリと母が立っていた。

どこの部屋だかわからない。

真っ白で、なんだか空気の重い部屋だった。

「……ごめんなさい」

エリが俯き、震えた声で言った。

何故か息も乱れている。

すると突然、母がエリに向かって手を挙げた。

「ちょ、母さん!やめろって…!」

俺は咄嗟にエリの前へ飛び出した。

パシンと頬が弾ける音がする。

でもそれは、自分ではなく背後からだった。

「……ごめんなさい?ごめんなさいで済むと思ってるの!?
だからあれだけ外出するなって、運動もするなって言ったのに!!
元々、あなたが誘ったんでしょ!?
あなたが学校説明会に行こうなんて言わなかったら…あなたと聖夜が出会わなければ、こんなことにはならなかったのに!!」

目の前で、母が半狂乱になって叫んだ。

恐る恐る、顔だけを後ろへ向ける。

倒れ込んだエリの頬は、少し赤くなっていた。

「なあ…俺はここにいるだろ?なあ、母さん、エリ…。何をそんなに騒いでんだよ。演技だろ?声だって聞こえてんだろ…。目の前に…そばに居るんだから…」


力が抜けて、膝から崩れ落ちる。


プツンと音がして、全てが真っ暗になった。




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