シャボン玉の君に触れる日まで
「聖…夜……?」
部屋の入口から、光が射し込んでいた。
逆光だったが、声から母親だとわかった。
手元にあった缶コーヒーが、音を立てて落ちる。
「聖夜…聖夜ぁ!!目が覚めたのね…本当に…本当によかった…。先生…先生を呼ばないと」
目が腫れ上がり、化粧も取れた母がナースコールを押す。
その手は震えていた。
看護師さんが一番にやってきて、ひとまず酸素マスクを外す。
俺は掠れた声で必死に話した。
「母さん…。もう、時間がないかもしれない…」
母はまだ興奮状態なのか、先程同様、眉が垂れ、安堵した表情のまま「えぇ?」と聞いた。
「ずっと…面と向かって言えなかったけど…。俺を産んで、育てて、生活や治療費のために毎日必死に働いて、こんな状態になっても治ると信じてくれて……本当に、ありがとう。俺は…母さんの子供に生まれてこれて…幸せだった」
母の顔色が変わっていくのが、簡単にわかった。両目から涙が溢れ出して、止まらない。
両肩をしっかりと掴まれ、ボロボロの顔が俺の目を見つめた。
「だめ…ダメよ聖夜…。あなたはまだ生きるんだから、母さんの命にかえても!」
「母さん…!」
大きな声ではなかったと思う。
でも、自分の出せる精一杯の声量で叫んだ。