シャボン玉の君に触れる日まで
「エリ…!!なあおい、しっかりしろよ!!」
俺は、最後の力を振り絞って、エリを湖から持ち上げる。
岩陰から、明るいところに引きずり出した。
もう力が入らなくて、エリと共に砂浜に倒れる。呼吸が上手くできなかった。
それでもエリを起こそうと、俺は振り返ったんだ。
「え……?」
そこには、見たことも無いものがあった。
いや、確かにそれはエリだけれども、半分エリじゃない。
月光に反射する半透明のものが、数え切れないほどたくさん、彼女の腰から下についていた。
「うっ……」
声とともに紫色の花が揺れた。
生きている。
この際、それがエリかどうかは置いておこうと思った。
何かはわからないが、生きものが倒れているのだ。
助けなければ。
俺は妙に冷静だった。
「だ、大丈夫…ですか?」
彼女は薄く目を開けた。
大きな瞳は、やはりエリと同じものだ。
俺の存在に気付いた彼女は、驚いて目を見開く。
「せ、聖夜くん…?」
エリだ。
エリだった。
彼女は勢いよく抱きしめてくる。以前と同じ、柔軟剤と湖の香りがした。
「目が覚めたんだね。本当に…本当によかった…」
俺を抱きしめる腕に、さらに力がこもった。
エリの心臓の鼓動が、服を挟んで伝わってくる。
「うん…。でもエリ、それ、どういうこと…?」