シャボン玉の君に触れる日まで
「この湖が、自殺湖って言われてるの知ってる?」
俺は上下に首を動かした。
やっと何かしら反応ができた。
「その名の通り、病院に入院した人が、自殺しに来ることもあったの。
でも、聖夜くんを助ける日まで、私は一度もそんな人たちを救うことができなかった。体も、心も…」
なかなかエリの言いたいことがわからない。
遠回りをして、俺に気付かれないように、今度は一体何を…。
「ねえ、聖夜くん」
「…ん?」
「……生きたい?」
月明かりに照らされた彼女は、暖かく微笑んでいた。
下ろした髪が、風になびく。
「生きたいよ…」
だってもう、ほら。
明るい空が、俺を迎えに落ちてくる。
早く伝えないといけない。
自分の使命を口に出そうとすると、エリがそれを遮った。
「人魚はね、誰か一人でもその存在がバレてしまったら、死ぬ時に全ての人間から、その人魚についての記憶が消えるようになってるの。
御先祖さまが、私たちを守るために呪いをかけたんだって聞いた」
何か嫌な予感がした。
いつもそうだ。
エリの考えや行動は読めない。
まるで謎解きをしているように。