シャボン玉の君に触れる日まで
「…私も、人より長く生きられないの」
突然、沈黙が破られた。
───人より長く生きられない。平均年齢が七・八十の日本で、彼女も俺も同じく早死にするんだ。
同じ…か。
「お前も…なんか病気なのか…?」
「…ううん、違うよ。すごく健康。でもね、長くは生きられないんだ。そういう運命なの」
そんな言い方をする女に腹が立った。
健康なのに、なんで長く生きられないんだよ。どうしてそれを運命だとか、簡単にまとめられるんだよ。
同情か。くだらない。
「…なんだよそれ」
全然同じなんかじゃない。
考え方がそもそも違うのだから。
病気でもない、体が弱い訳でもない、健康体の持ち主。それが早死するんだとか。
どうせ六十歳くらいで『早死』って言ってんだろ。
俺より早く死ぬことなんかないくせに。
ビュッと強い風が全身を突き抜けた。
思わず顔を歪め、それが相手にバレたよう。
そばに置いてあったらしい分厚いコートを、濡れている俺に被せてきた。
払ってやろうかと思ったが、あえてそれを固く濡れた自分に巻き付ける。
新手の嫌がらせだ。ムカついたから。