シャボン玉の君に触れる日まで

「あら、起きてたの」

ガラガラとスライド式の扉を開けて入ってきたのは母親。毎朝仕事に行く前に着替えを持ってくる。

「昨日、夜中に散歩に行ったんですって? 一体なんの為に入院してるかわかってるの? お願いだから、二度とそんなことしないでね」

母の真剣な瞳は、苦しさを表に出さないよう、潤いを留めていた。

俺は何も答えることができなかった。ただ布団を被り直し、目を閉じる。

「……ゆっくり寝て…元気になってね」

叶うはずのない望みをポツリと口にした母は、荷物を整理して病室から出て行った。

寝るだけで治るものならずっと寝てるさ。寝たら死ぬかもしれないから、安心して寝られないんだよ。

今日も生きるために食事をする。
今日も生きるために大人しく過ごす。
今日も生きるために診察を受ける。

変わらぬ結果に落胆し、またベッドに入る。

そうしてグルグルと時計がまわった。

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