桜の下で会いましょう
帝相手にそこまで言えるとは。

反って男らしいと、依楼葉は感じた。

「春の中納言殿。和歌の姫君に、伝えて下さい。あなたの妹背が、返事をお待ちしていると。」

「は、はあ……」

この勘違いが過ぎる事が、たまに傷なところだ。


その時、蔵人が叫んだ。

「帝のお出ましです。」

依楼葉は他の二人と共に、頭を下げた。

「今日は、天気のよい日だ。狩りも楽しめそうだな。」

「はい、お上。」

さっきまで、桜の君には負けないと言っていた藤原崇文は、もう態度が変わっている。


「私の輿の随行を、春の中納言が勤めてくれるそうだね。」

依楼葉は、少しだけ顔を上げた。

「宜しく頼む。」

「……恐れ多い事でございます。」

恋慕う相手と共に、遠出ができる。

依楼葉の胸は、静かに高鳴る。


「では各々方、出発致します!」

蔵人の掛け声で、五条帝は輿に乗り、依楼葉達三人は、馬に乗って進み始めた。
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