桜の下で会いましょう
それでも、最後に一目会えてよかった。

依楼葉は、心置きなく宮中を去る事ができた。


その後、父・藤原照明の計らいで、春の中納言・藤原咲哉は再び流行り病に倒れたと噂が立った。

冬の左大将・藤原崇文始め、数人の公達がお見舞いにと、左大臣家を訪れたが、病が移っては申し訳ないと、丁寧にお断りした。

お陰で依楼葉は、心置きなく女の身成りに戻り、髪を伸ばす事ができた。


そんな時依楼葉は、意外な人と会う。

それは、髪も腰辺りまで伸びた頃だった。

夕方近く、何やら屋敷内が、ざわつき始めた。


依楼葉は部屋の中から、庭にいる左島を手招きした。

だが佐島は、依楼葉に気づくと怯えて近づかない。

髪の長い自分に、慣れていないのかと言って、そんなに怯えるものかと、依楼葉がため息をついた時だ。


「さあさあ、こちらが咲哉の部屋でございます。」

父・藤原照明の声がした。

「あっ、父上さ……」
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