桜の下で会いましょう
太政大臣・橘文弘は、桜子が小さい頃から、帝の元に入内させる気で教育を施していた。

「私も何も疑わず、この絵巻のような暮らしを、送れるものだと思っていた。」

綾子は、一歩前に出た。

「何を申されますか。今でも十分に、絵巻のようなお暮しを、なさっておいでですよ。」

すると桜子は、クスリと笑った。


「綾子は、この絵巻を見た事がある?」

「えっ?」

綾子が御帳台を見ると、たくさんの人がたくさんの色鮮やかな衣をまとい、きめ細やかに描かれている。

それは贅を限りを尽くした、この世で一つだけの、御帳台だ。

「この中には、帝と帝の女御と、その間に生まれた皇子が、描かれているの。」

桜子は、御帳台の真ん中に描かれている、その幸せそうな親子の絵の部分を触った。

「ずっとこの帝は主上で、この女御は私で、その間には当然、この可愛らしいお子が、産まれるものだとばかり、思っていた。」
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