桜の下で会いましょう
藤の君が心驚かせているのは、依楼葉が見ても分かった。

「……私には、そのようなお勤め、無理でございます。」

「そのような事は、ございませんよ!」

拳を握りながら、藤の君は興奮していた。


「なんと言っても、和歌の尚侍は関白左大臣家の姫君。藤壺の女御様でも、手だしなどできませんわ!」

依楼葉は、そこでハッとした。

「……藤の君。知っていれば、教えてほしいのです。」

「何をです?」

興奮していた藤の君も、落ち着いてしまった。


「今まで、帝に入内した姫君は、どのような家柄だったのでしょう。」

「ああ、確か……」

藤の君は、唇に指を当て、考えた。

「上皇様の弟宮様の一宮様。右大臣・藤原武徳様の妹君様。あっ、そうそう。確か、和歌の姫君様の若い伯母上様なども、いらっしゃいましたよ。」

依楼葉は、ゴクンと息を飲んだ。

「そうそうたる、方々だったのですね。」
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