桜の下で会いましょう
帝も夏の右大将・橘厚弘も、目を丸くして驚いた。

「それで和歌の尚侍様は、自分がやってしまった自責の念に堪えかねて、気を失ってしまったのです。」

辺りはシーンとなる。


「そんな……」

夏の右大将・橘厚弘は、尚侍として仕える、依楼葉の中身を知っていたつもりだった。

それが、嫉妬で妹を庭に突き落とすとは!

「そうだ!お腹の子は……」

橘厚弘は、桜子の顔に耳を近づけた。

「桜子、お腹は大事ないか?お子は、お子は無事なのか!」

だが桜子は、肩ばかりを痛がって、一向に答えようとしない。


そして、女房に呼ばれた医師がやってきた。

「これは、打撲ですな。」

桜子の肩に、直ぐに薬が塗られる事になった。

「お子は!?大事ないのか?」

橘厚弘は、桜子の手を取り医師に尋ねた。

「えっ?お子!?」

医師は慌てる。

「お子がいる中で、庭に転倒したとなれば一大事。詳しく調べる故、皆、部屋から出て行って下さるか。」
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