桜の下で会いましょう
「お話、聞かせて頂いて、ありがとうございます。」

依楼葉が、立ち上がろうとした時だ。

「待って下さい。」

藤原崇文は、依楼葉の手を掴んだ。


「まだ、お話したい事が……」

その瞳は、まだ依楼葉を追っているようだった。

「夏の左大将様……」

本当は、ここで止めておきたかった。

だが話を聞かせて貰った手前、それだけで帰るのは、依楼葉は気が引けた。

「何でしょう。」

依楼葉は、再び藤原崇文の隣に座った。


その時だ。

藤原崇文が、依楼葉を抱き寄せたのだ。

「さ、左大将様!」

「静かに!」

依楼葉の顔を、藤原崇文が覗き込む。

「他の者に、聞かれてもよいのですか?」

「えっ?」

藤原崇文は、依楼葉を耳元で、囁くように言った。

「……今回の、藤壺の女御様のお話、聞いておりますか?」

「ええ。」

聞いているどころか、依楼葉は、その場面を見た張本人だ。
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