桜の下で会いましょう
「旦那様の笛を取って、花菖蒲の君様にお渡ししたのは、この私でございます。」

「さち!」

さちの体は、震えていた。

「旦那様が足を運んで下さるようになって、しばらくした後、花菖蒲の君様のお腹に、若様がおられる事を知って、このまま旦那様の足が遠のいたらと……お二人の将来を憂いてしまって……ある夜、旦那様がお休みになっている間に、愛用の笛を取ってしまいました。」

「なんと……失くしたと思っていたのは、その方のせいだったのか。」

父・照明は、腰を抜かした。

「お許しください。全て、私が勝手にお二人の将来を憂いたのがいけなかったんです。」

「だが私は本当に、花菖蒲の君から、足を遠のけてしまった。」

照明は、昔を思い出して、シュンとした。

「だが今は、そなたが私の笛を奪ってくれて、よかったと思うておる。」

照明は、隼也の腕を掴んだ。

「このような素晴らしい息子に、巡り合わせてくれたのだからのう。」
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