桜の下で会いましょう
「はあ。さすがは、頭中将殿。詠む歌も艶やかであるなぁ。」

「ほんにほんに。」


こうして、歌会は盛り上がったまま、終わりを迎えた。

家に帰って来た隼也も、顔色がよかった。

「無事に終わって、よかったな。隼也。」

「父上様のおかげです。」

太政大臣・橘文弘に疑われ、一時は我慢するしかないのかと思った。

だが、父である藤原照明が、意を決して異議を唱えてくれた。

それが、隼也は何よりも嬉しかったのだ。


「そうだ。桃花に聞いたか?」

「何をですか?」

「何をとは。来年には、父になると言うのに。」

それを聞いた隼也は、慌てて妻の桃花の元へ、駆けて行った。


「桃花!子を成したと言うのは、本当なのか?」

「はい。」

隼也は喜びのあまり、皆の前で桃花を抱きしめた。

「ああ、よかった。本当によかった。」

思えば、二人の出会いは、奇妙な物だった。
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