桜の下で会いましょう
「いやいや、何もない。気のせいじゃ。」

そう言われてみれば、自分の思い過ごしかもしれない。

だが隼也は、その小さな気がかりを、姉の依楼葉に伝えた。


「父上様が?」

依楼葉も、それは気がかりになった。

「どうした?尚侍。」

依楼葉の気がかりは、帝である春の君の気がかりにもなっていた。

「それが……」

「難なく申せ。私とあなたの仲ではないか。」

そう言われると、依楼葉も安心して、口を開く。

「父上様の容態が、悪いようなのです。」

「関白左大臣殿の?」

「それが、変なのです。」

「どのあたりが?」

「父上様は、他の方から見ても、体は丈夫故、風邪もひいた事もありません。これまで大病もないと言うのに、具合が悪いとは気がかりでなりません。」

桜の君は、しばらく考えた。


「尚侍。あなたの周りには、頼りになる者はおるか?」

「おりまする。この間、弟の乳母を連れて来た者です。」
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