桜の下で会いましょう
そして静かに依楼葉の壺を去った厚弘は、あの肩の傷に囚われていた。

どこかで見た事があるのだ。

どこかで、あの傷を。


厚弘は、庭先を見た。

冬ももうすぐ終わり、まだ寒いが季節は春を迎える。

そう言えば、春の中納言殿もこの季節が、一番お好きだった。

厚弘は、咲哉の事を思い出していた。


そして、ハッとある事を思い出した。

あの肩の傷。

細い肩。

確か、春の中納言殿は野行幸に際、肩をに矢が刺さると言う怪我をした。

冬の左大将と一緒に見舞った時、なんと細くて白い肩だと驚いた事を思い出した。


「双子の兄妹で、同じ場所に傷がある?」

厚弘は立ち止まって、唇に指を当てた。

「そのような事が、起こり得るのか?」


そもそも男女の双子など、不吉でどの家も遠ざけるはず。

もしかしたら、二人は同じ人物?

厚弘は、そっと依楼葉の壺を眺めた。
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