桜の下で会いましょう
文弘は、扇を落としそうになった。

「なぜ、肩を見れたのだ!」

「その……押し倒した時に逃げられて……それで見えたのです。」

「ひぃぃぃぃ!」

文弘は、倒れそうになった。

「本当に、睦んでおらぬのか!」

「……はい。恥ずかしい事に、逃げられました。」

「うわぁぁぁ。」

喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら。

文弘は、混乱した。


「……尚侍の肩に、矢傷があったのです。」

「矢傷?尚侍は幼い頃、じゃじゃ馬だったと聞く。その時の転んだか落ちたかの傷であろう。」

「そうなのでしょうか。」

「あのじゃじゃ……尚侍であれば、そうであろう。」

厚弘は、手をぎゅっと握った。

「それが、その矢傷。私は、見た事があるのです。」

「なに?ど、どこでだ!?まさか夜這いに行った女であるまいな。」

「そうではありません!野行幸の際に、春の中納言殿が矢を受けて負傷された事があったでしょう。」
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