桜の下で会いましょう
「しかし、そのような状況も、ずっと続く訳もない。どうしたら良いか迷っていたところに、ちょうど隠し子が参った。それが秋の中納言殿です。そこで女子はひっそりと姫君に戻った。如何でしょう。」

「……つまり、姫君が男子に扮している時に、矢傷を負った。だから姫君に戻った今でも、その矢傷があると言う事か。」

「はい。」

「その姫君が……」

「和歌の尚侍であるならば……」

二人は顔を合わせると、しばらく茫然とした。


「そのような事があれば、関白左大臣家は、家名を守る為に跡継ぎを偽った事になる。」

「ひいては、帝を愚弄する行為に当たります。」

橘文弘は扇の中で、ニヤッとした。

「厚弘。この事はまだ、我らの内密にいたせ。」

「は、はい。」

「私から、帝に進言しよう。」

文弘はやっと、邪魔な関白左大臣家を追い出せると考えた。

桜子を追い出した、尚侍も追い払える。

そう思えて、ならなかった。
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