桜の下で会いましょう
そして、ある日の午後。

橘文弘は、帝から呼ばれ清涼殿を訪れていた。

その脇には、息子である右大将・橘厚弘もいた。


「ご苦労であった、太政大臣殿。」

「主上の仰せとあらば、いつでも飛んで参ります。」

橘文弘と厚弘は、共に帝に頭を下げた。

ふと、橘文弘は帝の側に侍る、依楼葉を見つけた。


「そう言えばこの前、和歌の尚侍には、息子が大変失礼な事をした。」

帝と依楼葉は、揃って顔を上げた。

その張本人の厚弘は、依楼葉を見てニコッとしている。

「い、いえ……」

依楼葉は、あの時の事を思い出したくないと、厚弘とは反対の方向を向いた。


「失礼な事とは?」

帝が尋ねると、厚弘ではなく父の文弘が、代わって答えた。

「いえ、この阿呆が夜中間違えて、尚侍殿の部屋の中に入ってしまったようでございまして。」

帝の眉が、ピクッと上がった。

「夜中に……尚侍の部屋に……」
< 351 / 370 >

この作品をシェア

pagetop