桜の下で会いましょう
続いて文弘も、そんな帝を見てニヤッとした。

ただ一人、依楼葉だけは焦っていた。

「な、何もございません!右大将殿には、そのまま帰って頂きました。」

橘厚弘が、白い目で依楼葉を見る。

だが、依楼葉には関係ない。

帝だけには、他の男と密通しているなど、絶対に思われたくないのだ。


「そこでなのですが……」

橘文弘は、得意の扇を取り出した。

「右大将が言うには、尚侍の肩に、似つかわしくない矢傷を見たと言うのです。」

依楼葉は、ハッとした。

まさか、あの傷を見られていたなんて。


「それがどうしたと言うのだ。」

帝は、冷静に橘文弘に尋ねた。

「主上は覚えておりますかな。いつぞやの野行幸の際、亡くなった春の中納言殿が、肩に矢傷を負った事を。」

依楼葉は、一瞬息が止まった。

「ああ。覚えているが。」

「その時の傷と、尚侍の肩の矢傷は、同じ場所に同じようにございます。」
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