桜の下で会いましょう
「馬鹿な事を申すな!」

帝は、大声で叫んだ。

「主上。これは、国家を揺るがす大事でございますぞ!」

橘文弘も、負けじと反論する。

「いくら双子とは言え、同じ場所に同じ矢傷など負えるでしょうか。」

「何が言いたいのですか?太政大臣殿。」

「私が申し上げたい事は。」

橘文弘は、扇を勢いよく開いた。

「和歌の尚侍と、春の中納言殿が、同じ人物ではないかと言う事です。」


依楼葉の額に、嫌な汗が滲む。

とうとう、自分が一番恐れていた事が、起こってしまったのだ。


「そうであれば、この者は男のなりをして、帝を惑わせた罪人。引いては、それを知っていた左大臣家も同罪。早急に尋問にかけるべきかと存じます。」

帝は、一旦深呼吸をした。

自分は、依楼葉が理由あって、兄である咲哉に扮している事も知っているし、それは別に国家を揺るがそうとか、帝をかどわかそうとも思っていない事も知っている。
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