桜の下で会いましょう
「さあ、本当に子供の頃にできた傷と言うのであれば、ここでその傷を見せて頂けるかな。」

橘文弘は、扇の裾から細い目を出した。

「な、何を無礼な!」

人前で肩を出せと言われ、依楼葉は強気に出た。

「太政大臣殿。それはあまりにも、尚侍に対して失礼であろう。」

帝も反論した。

「そう申しますが、ほんの小さな傷であれば、おおっぴらに衣を下げる必要はないと思います。本当に子供の頃の傷と仰せならばのお話ですが。」


依楼葉は、静かに目を閉じた。

もうここまで来れば、肩の傷を見せるしかないのか。


「……分かりました。」

「尚侍?」

帝が振り向くのと同時に、依楼葉は肩の衣に、手を掛けた。

「そこまで疑うと言うのであれば……」

「尚侍、よせ!」

帝が止めるのも聞かず、依楼葉が上衣を脱いだ時だ。


「失礼致します。」

急に、秋の中納言・藤原隼也が現れた。

「隼也……」
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