桜の下で会いましょう
「まさか……」

文弘も、血の気が引いている。

「そのまさか。女の振りをしている私に、右大将殿は迫ったのですよ。」

「げえええ!」

文弘は思わず、厚弘の頭を扇で殴った。


「いくら暗がりの中だと申しても、男か女かの違いにも、気づかなかったのか!この阿呆者!」

「いや、確かにあれは、女だと!」

するとまた隼也は、艶めかしい視線をそっとした。

「まあ、嬉しい。それ程までに私は、美しかったでしょうか?右大将殿。」

「うわわわわ……」

もう厚弘は、口を開いたまま、放心状態だった。


「これ以上、申す事はありますかな。右大将殿。」

橘文弘は、ガクッと肩を落とした。

「……何もございません。」

「うん。それなら、よい。」

その後、橘文弘・厚弘親子は、すごすごと清涼殿を後にして行った。


残った帝、依楼葉は、はぁーっと息を吐いた。

そして帝は、クスクスと笑いだした。
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