桜の下で会いましょう
「何と。春の中納言に扮していたのは、秋の中納言だったとは。」

そして、顔を押さえて笑い出した。

「あ、いえ。本当は、兄に扮していたのは、姉君でして。」

「分かっておる。そうでなければ、野行幸の際、私が必死に口説いた相手は、そなたになってしまう。」

そう言って笑う帝を見て、隼也も依楼葉も、笑いだした。


「あーあ。本当に、どうなるかと思いました。」

安心した依楼葉は、目に涙も浮かべていた。

「それにしても、隼也。その傷は。」

「姉君の部屋に、右大将殿が入って行ったのを、私は知っていたのです。そこで肩の傷が見えて、これは後々何かの禍いになるかと、自分で付けておきました。」

「なんと!」

依楼葉は、隼也の肩を抱き寄せた。

「痛い思いをさせました。私とて矢が刺さった時には、気を失う程であったと言うのに。」

「姉上。お気に召されるな。」

隼也は、依楼葉の背中に、そっと手を回した。
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