桜の下で会いましょう
「お考え直し頂けないでしょうか。」

依楼葉は、橘文弘に手をついて迫った。

「はて。もう帝にお許しを頂いた事ですしね。」

「そこを。」

必死に頼む依楼葉に、橘文弘は扇を開いた。


「……尚侍は、そこまでしてなぜ、私を留めようとするのか。」

「それは……」

依楼葉は、下を向き勢いを止めてしまった。

「正直、この前も尚侍には失礼な事を申し上げた。そればかりではない。左大臣家にも難癖をつけ、失脚させようともした。」

依楼葉は、手を強く握ると、ゆっくりと顔を上げた。

「偏に、帝の御為でございます。」

「帝の?」

橘文弘から見ても依楼葉は、帝への忠義が厚いように思えた。

だからこそ、太政大臣は帝の御為にならないと、尚侍は言うと思っていたのに。


「帝は、叔父上であり、義理の父上様である太政大臣殿を、ご尊敬申し上げており、誰よりも頼りにされております。」

「いや、それは立場上の事……」
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