桜の下で会いましょう
「いいえ。決して、お立場でそのようになさっているのはありません。太政大臣様のお人柄そのものを、慕っておられるのです。」

「尚侍……」

その真っすぐな瞳に、橘文弘は熱い想いを感じ取った。


「分かり申した。」

橘文弘は、勢いよく扇を閉じた。

「尚侍殿に、そこまで言われましたら、お断りする訳にはいきません。」

依楼葉は、ほうっとため息をついた。

「ああ、よかった。」

胸に手を当て、嬉しそうに喜んでいる依楼葉を見て、橘文弘はフッと笑みをこぼした。

「見てて、飽きぬ姫君よ。」

「え?」

依楼葉と橘文弘は、顔を見合わせた。


「本当に帝に必要な者とは、尚侍のようなお人なのでしょうね。」

「いいえ。私など……」

そう言って頬を赤らめる依楼葉に、奥ゆかしさも併せ持っている事を、橘文弘は感じたのであった。
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