桜の下で会いましょう
早速橘文弘は、帝に隠居の撤退を、申し願いでた。

「これは、これは。こちらとして、有難い事です。」

帝も、直ぐに受け入れてくれた。

「それにしても叔父上が、一度決めた事を容易に取り消すなど。何かあったのですか?」

「なあに。いつもお側に侍っている尚侍殿に、戻って下さいと頼まれましてね。」

「和歌の、尚侍に?」

これには、帝も驚いて笑ってしまった。

「これはもっと、面白い事を聞きました。太政大臣の叔父上が、一人の尚侍の助言を、受け入れるとは。」

「ただの、尚侍殿ではございません。」

橘文弘は、帝と目を合わせると、ニヤッと微笑んだ。

「未来の中宮様に、なられるやもしれぬお方です。」

「叔父上!」

その話は、何度も入内を断られている帝にとっては、頭の痛い話だ。


「……あの者は、今のままがよいのです。」

「本当に、そうだとお思いですか?」

橘文弘は、扇を得意そうに広げた。
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