桜の下で会いましょう
どことなく夫婦の時間を避けていた依楼葉だが、2週間も訪れないとなると、人はあらぬ疑いを口にするようになる。

依楼葉は、初めて西の対に、足を踏み入れた。


「お勤め、ご苦労様でございました。」

「ああ。」

それとなく、畳の上に座る依楼葉。

この場所であっているかも、分からない。

「今日は、如何でしたか?」

「ああ……女房達が変に騒ぎ立てるので、疲れてしまったよ。」

依楼葉は、肩を自分で叩いた。

それを見た桃花は、依楼葉の後ろに回る。

「背の君様、私が肩を揉んで差し上げましょう。」

「……すまぬ。」

肩を揉み始めた桃花は、依楼葉の耳元で囁いた。


「背の君様が、女房達の事を口にするなんて、初めてですね。」

「えっ?」

依楼葉は、息を飲んだ。

あれ程、女房達に騒がれていたと言うのに、咲哉は妻に、一言を告げてはいなかったのか。

まずい事をした。

依楼葉は、そっと桃花の手に、自分の手を重ねた。
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