桜の下で会いましょう
橘厚弘のように、大臣の子息は、蔵人と大将を歴任する事が多かった。

勿論、大将は蔵人よりも位が高く、中納言と同じ従三位。

それでも帝の前では、武力よりも知識人を表す頭中将と呼ぶのが、いいのではないかと、依楼葉は思ったのだが、本人は違ったようだ。

「まあ、同じ止ん事無き方(身分の高い方)にお仕えする者同士、仲良くしましょう。」

そう言って、気さくに微笑んでくれた橘厚弘。

橘厚弘と言えば、父は橘文弘で、時の帝のはとこだと言うのに、全くすかした感じもない。

依楼葉は一目で、橘厚弘を気に入った。


「では、お上。早速、政の件でございますが、」

「ああ。」

依楼葉は、帝の声を聞いて、目を大きく見開いた。

どこかで、聞いた事のある声だ。

「この度の飢饉の事、宮中にある米を、一部開放した方が、よいと思われます。」

「私も、そう思っていたところだ。」

その柔らかく、力強い声。
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