運命だけを信じてる

駅前の蕎麦屋に入った。

食欲のない私の心境を察してくれたのだろう。


「良かったよ、空いてて。ここ凄い人気なんだ。来たことある?」


「初めてです」


「前山って普段、どこで食事してる?」


そして仕事の話を切り出さず、まだ動揺している私でも受け答えしやすい話題を振ってくれる。

ああ、この人がーー上司だったら。
私の1年間は無駄にならなかった。


「移動販売のお弁当を買うことが一番多いです」


「移動販売か。金曜に来てる、カレーのお店。俺のお気に入りなんだよ。辛さも選べてさ」


「甘口なら食べたことがあります。海鮮カレーもありますよね」


「海鮮も美味いよな」


良かった、普通に会話できている。
この分だと午後の仕事もこなせるかもしれない。今日早退したら、明日出社することが億劫になるし、気まずいだろう。

ーーアレ?

私、辞めるって思ったのに。

あの最悪な職場に戻ることを考えている。

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