運命だけを信じてる
いつの間にか神田くん担当の議事録は私が作成することが当たり前になり、それどころか彼にまでコピーとりを頼まれるようになった。
文句を言ったところで、誰も耳を傾けてはくれない。
そんな環境の中でも、私は、辞めようとは思わない。私には味方が、星崎課長が居るから。
蕎麦屋から1年経つが、あれからご飯を一緒に食べることもなく、すれ違ったら挨拶する程度だ。もしかしたら星崎課長は自身の発言を忘れてしまったかもしれない。
それでも、いいんだ。
今の私には彼の言葉が、必要だから。
「おい、おまえ。パワーポイント使えるよな?来週の発表の資料作れ」
「はい?」
「東課長の指示は全てここに書いてあるから」
定時になりリュックを背負った神田くんはレジメを投げて寄越した。
来週は営業課での合同プレゼンがある。チームごとに新商品の提案をして、優勝チームは商品化も検討される。
東課長率いる第1営業課はなんとしても優勝したいと、いつも以上にピリピリとした空気であるのに。その大事な資料作りを私に寄越した神田くんは何を考えているのだろう。
ストレスから痛み出した頭を無視してレジメを見る。そこには東課長の直筆で、細かく指示や要望が記されていた。
端から順に読むけれど、ありきたりな内容で面白味が少しもなかった。既存商品のコピーを作り出そうとしているだけだ。これじゃぁ、優勝は絶対に無理だな。
深い溜息をついてパソコンに向き直った。