運命だけを信じてる

東課長に神田くんから資料作りを任されたという愚痴を伝えれば、明日までに作れと言われてしまった。

鬼だ。

今からでは終電を逃すことは目に見えているし、そもそもこんな薄い内容のプレゼン資料を作るなんて馬鹿げている。


ひとり残ったオフィスで、時計を睨みながら手を動かす。



「遅いな」


「あ、お疲れ様です」


20時を回った頃、扉が開き、星崎課長の姿が見えた。



「夕飯食ったか?」


「まだですけど、今日中に終わらせないといけない仕事がありまして」


「ん?どれ?」


私の席に近付いてきた星崎課長に、つい愚痴のようなことを言ってしまう。


「来週の新商品プレゼンの資料を丸投げされまして。しかも大した内容でなく、会議室の大きなスクリーンに映し出されたら笑われそうです。既存商品のコピーみたいなもので…3課は終わりました?」


「9割、終わった。俺もその仕上げをするために取引先から戻ってきた」


「そうなんですね。お疲れ様です」


「内容がないなら、余計にパワポのスライドにインパクトが必要だよな。デザインとか」


「デザインですか」


「見せ方は重要だな。既存商品と類似しているなら、既存商品の良さと、更にどう変わるのか、その再挑戦の意味をアピールしないと」


「はい」


真剣にアドバイスしてくれる星崎課長の対応に、どうせダメなのだから適当に仕上げれば良いと思っていた自分が恥ずかしくなった。

< 138 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop