運命だけを信じてる
泣きじゃくる私を星崎課長はそっと抱き締めてくれた。広い胸に顔を埋めて彼の体温を感じた時、更に胸が締め付けられた。
「ありがとう。前山に俺は救われたよ」
「私は状況を悪化させただけで…」
「前山は正しいことをしたんだ。おまえはカッコいいよ。本当にありがとう」
優しい音色の言葉に顔を上げると、星崎課長は頰をさすってくれた。
「痛いよな」
「平気ですよ」
叩いたあなたの手が、心の方がずっと痛いことを知っているから。
「ごめんな。巻き込んでしまって」
「いいえ。自分から巻き込まれたので…私が行かなかったら課長は真実を黙っているつもりでしたか」
「1課に悪意はあることは確かだが証拠がないからね。頭を下げることしかできなかった」
余計なことをしてしまったと、冷静になった今なら理解できる。
相手は東課長。東社長のご子息で、彼が悪者になることなんて絶対にありえない。
どんなに否定しても、星崎課長と3課が悪者になるしかないのだ。
正しいことをしても、悪には敵わないこともある。それが社会人なのだ。
東課長に直談判した2年前から、私は少しも成長していなかった。また同じことを繰り返しただけだ。
考えもせず、会議室に飛び込んだ私は社会人としての自覚が不足していた。