運命だけを信じてる
席に戻ると逢瀬先輩は早速、課長と話していた。
どうか、今夜は星崎課長に別の予定が合って欲しい。
「前山さん、営業部の角田さんから電話がありました。折り返しお願いします」
「あ、はい。ありがとうございます」
小牧さんに話しかけられて、声が震えた。
彼と別れた今、星崎課長に気持ちを伝えることはやましいことではないのに、小牧さんには隠したいと思ってしまう。
もう彼が気にすることもないのに。
「後、営業部から送られてきた明日の会議の資料なのですが…」
小牧さんは変わらない。
相変わらず丁寧な口調だし、目を見て話してくれる。付き合う前と、その態度は変わりない。
ただ以前のように、好きだとか、運命だとかーー愛を伝える言葉が失われただけ。
それらの言葉は、今度は別の誰かに向けられるのだろう。
「…前山さん、聞いてますか?」
「あ、え、ごめんなさい…」
指摘されて我に返る。
いつも通りにできていないのは私の方だ。
「大丈夫ですか」
「大丈夫です。もう一度お願いできますか」
「はい」
繰り返される言葉に今度はきちんと耳を傾ける。
しっかりしないと…。