運命だけを信じてる

アヒージョを頼み、ワインで乾杯する。


「小牧のこと、悪かったな」


「びっくりしました…」


「話すか迷ったし、前山なら変な先入観を持たないと分かっているけど。…聞きたくてな」


「何をです?」


「小牧は、どんな人間だ」


「え?」


「気にしないと思っても、どこかで色眼鏡で見てしまう部分があると思う。だから最初から知っていた俺や逢瀬には見えないこと、おまえはちゃんと見えてるんじゃないか。東家の小牧でなく、ひとりの人間として小牧はどうだった」


どうだろう。

私はOJTとしてはもちろん、恋人としても少しの間だったけれど傍に居た。

会社の人の中で、私が小牧さんの一番近くに居ることができたのかもしれない。


小牧さんはーー

仕事ができて、意欲もあって、気遣いができて、いつでも冷静で、そして。
そしてなにより優しい人だ。


こんなこと言ってはいけないけれど、東家に自分勝手で冷たい印象を持っていた。

けれど小牧さんは悪い東家のイメージとは正反対の人だ。


もし最初から小牧さんが東家の方だと知っていたら、星崎課長の言う通り私は色眼鏡で小牧さんを見てしまったかもしれない。



「…なんてな。それで、あれから小牧とは気まずくなっていないか?」


「いいえ、そこは問題ないです」


仕事上はなにも問題ない。
ただ心の距離が離れただけだ。


< 199 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop