アイドルは輝かない
第一話
「宮原舞(みやはらまい)はもう死んだよ」

 学校までは電車で二十分。十七歳で一年遅れの高校一年生になって、こうして朝のラッシュに揉まれることも慣れてきた。都心のショッピングビルには最近人気のグラビアアイドルを使った広告、去年まであそこにいたのは……。
 だからと言って別に後悔しているわけでもなく、こうなることを願ったのは私だった。

 バイバイ。

 ◇

 騒がしい教室の中では授業中だと言うのに男子生徒と先生が大声で話している。青年雑誌に載ってるグラビアアイドルのスタイルどうの、数学の時間だったはずなのにもはや教室は無法地帯。私はあまりのくだらなさに大きなダテ眼鏡を外して机に伏せた。結局は皆見た目の話で、数字よりも太ってるよ。そうやって会話に入ることすら馬鹿馬鹿しい。

「米原(まいはら)さん、課題終わっちゃった?」

 教室の後ろで騒いでいた先生がいつの間にか私の隣に。

「あってるかどうかはわからないけど……」
「んー……大丈夫、正解! じゃそろそろみんなで答え合わせしようか?」

 ニコニコ笑顔で立ち上がる、彼の名前は鬼堂遥(きどうはるか)、名前の文字面ほど怖くはないし、女みたいになよなよしているわけでもない。性格見た目ともに校内では人気のある方だと思う、黒髪長め、二十九歳独身。

「じゃあ、誰に黒板に答え書いてもらおっかなー、うん、米原さん!」

 教室の空気が変わったのはわかった。皆噂を信じている。米原みやびの事情について。
だけど黙って私は立ち上がり、教壇に登って板書する。

 誰かが影で言った、宮原舞と。
 一斉を風靡した人気グラビアアイドルの活動休止の真相は、誰も知らない。
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