悪夢はカモミールティと一緒に
「ごめんなさい。勝手に写真を見ちゃって」

「いいよ。好きに見て」

 隅にあったちゃぶ台を引っ張り出して、リュウゴはトレイに載せて運んできたお茶を置いた。

 私はベッドの下から他のいくつかの箱も引っ張り出し、ちゃぶ台の側に座った。

 私の目の前にティーカップを置いて、リュウゴも前に腰掛けた。

 写真を見ながら、私はティーカップを手にして、フーフーと息をかけてから一口含んだ。

 緑茶にもにた青々しい爽やかなコク。

「これ、ダージリンファーストフラッシュだね」

「よくわかったね。注文してたのがやっと届いたんだ。君に出せてよかったよ。飲みたいって言ってたよね」

「飲みやすくて和菓子にも合う紅茶なんだってね。私もそれを聞いて興味が出て、一度飲んでみたかったんだ。和菓子大好きだからね」

「あいにく、和菓子はないけどね」

リュウゴは申し訳なさそうにする。

「おばあちゃんは和菓子を食べないの?」

「以前は好きだったけどね。最近は出しても興味を示さなくなった」

 リュウゴはおばあちゃんに視線を向けた。

 おばあちゃんは相変わらず眠っている。

「おばあちゃん、よく眠ってるね」

 おばあちゃんを見ながら、私はまた一口紅茶を飲んだ。

「薬が効いてるんだと思う。寝てくれた方が僕も助かるし」

「介護が大変なの?」

 私は他人事のように訊いてしまう。

 リュウゴは決して弱音を吐かなかった。

 本当に穏やかな笑顔で、なんでもないことのように笑っていた。

「やっぱりもうすぐ逝ってしまうと思うと、寂しくてね。おばあちゃんには感謝してもしきれないからね。最後までちゃんとお世話しようと思って」

 リュウゴはなんて優しいのだろう。

 箱から写真を一枚取り出し、それを私に見せた。

「これ、おばあちゃんの若かりし頃。すごく美人だろ」

「ほんと、美人だね」

 私も顔が綻んで思わず呟く。

 海を背景に、大胆なビキニを着ているモデルのような写真だった。

「おばあちゃん、結構努力家でさ、常に体系気にして美しさを保っていた。だからある程度歳を取っても綺麗でいられた」

「だけどここまで歳を取っちゃうと、人間ってどうしても仕方ないね。老いっていやだな」

 おばあちゃんを見ていると、やがて歳を取っていく自分を想像してしまう。

「君はまだ高校生じゃないか。まだまだ歳を取るには早いって」

「リュウゴと釣り合う大人にはなりたいけど、それ以上に歳を取るのはやっぱりいやだな」

「君が歳を取っても、ずっと僕を好きな限り、僕は気にしないよ。やっぱりまだ僕のこと好きでいてくれるのかい?」

「ええ、もちろんよ。リュウゴ。あなたに初めて会ったときからずっと好き。この気持ちは永遠よ」

 それは私の本心だった。

「リュウゴはどう? こんな私でも好きになってくれる」

「僕は……」

 そこまでリュウゴがいいかけたとき、ベッドから呻き声が聞こえた。

 おばあちゃんの目が覚めた様子だ。
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