悪夢はカモミールティと一緒に
「僕、おばあちゃんのこと大好きだよ。本当に若い頃はおばあちゃん綺麗だった。一緒に手を繋いで歩いていたとき、僕は本当に幸せだった。孤独な僕を深い愛情で包んでくれたおばあちゃん。おばあちゃんはいつも温かくて、抱きしめられるとほっとした。でもおばあちゃんがどんどん歳を取っていくのはやっぱり辛かった。いつか別れがきてしまう。おばあちゃんは僕の前から消えてしまう。なんとかしなくちゃっていつも思っていた。でもそれもやっとふっきれたと思う。おばあちゃんがいなくなるのは寂しいけど、僕はそれを受け入れる事ができる。これも麻弥に会えたからだと思う」

 しんみりと私は静かに聞いていた。リュウゴは更に続けた。

「でも麻弥にとったらいい迷惑だったかもしれないね。僕は昔から女性をひきつける力が備わっていて、自分で言うのもなんだけど、いつももてていた。それで僕は麻弥を夢中にさせてしまった。それが、麻弥の運命を変えた。麻弥はあのとき自殺しようとしてホームから飛び込もうとしていたけど、僕はそれを阻止した。僕はその時、頭の中で色んな事を巡らせていたと思う。麻弥を自殺から引き止めたのは助けようと思ったわけじゃなかったんだ」

 申し訳なさそうにリュウゴは虚空を見ていた。

「麻弥なら僕を助けてくれる。僕のためならなんだってしてくれる。僕は命の恩人だし、麻弥もお礼がしたいといってくれた。だから僕はそれを利用した。麻弥は喜んで僕に一生を捧げてくれるつもりになった。有難かった。だけど、麻弥、もしかして後悔してる?」

「そんな事、今更訊かれてもね……」

 私はおばあちゃんを横目にして相槌を求めるように言った。

「だけど僕はひとりの人しか愛せないんだ。どんなにたくさんの女性からアプローチされても、僕が好きになるのはいつもひとりだけ。たったひとりの人をいつも追い求める。僕は変わった体質なんだ」

「それって理想だと思うけどな」

 私はつい口を挟んでしまった。

 まだ話が終わってないリュウゴから最後まで聞けってちょっと睨まれた。

 ごまかしたように私は笑って首をすくめてしまう。

「麻弥に初めて会った時言ったよね。僕には彼女がいるって。そして遠くへ行ってしまうから、僕は追いかけられないって。それがおばあちゃんのことなんだ。おばあちゃんは僕の彼女だったんだ。僕の彼女の名前はニイノ。おばあちゃんはすっかり歳を取ってしまい、まもなく寿命をまっとうして僕から去ろうとしている。僕を抱きしめてくれたこの身体ともお別れ。本当に今までありがとう」

おばあちゃんは泣いていた。

その涙をリュウゴは優しく拭ってやった。
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