神志名社長と同居生活はじめました



「あー、楽しかったです!」

人気アトラクションのジェットコースターを三つ制覇した!
スリルも上々で、大満足!


「そう……それは良かった」

けれど、私とは対照的に、ベンチに座って疲れたような顔をしている社長。
しまった、私の趣味に付き合わせて疲れてしまったかな?

私は慌てて社長の隣に腰掛ける。


「ジェットコースター、つまらなかったですか? 私はなかなか楽しめたんですが、社長からしたら全然物足りなかったとか?」


私がそう尋ねると、社長は。


「……逆」

「え?」

「……スリルありすぎて酔った」

「えっ!」

私は慌ててショルダーバッグの中から園内で買ったペットボトル飲料を取り出し、社長に手渡した。


「大丈夫ですか!? お水飲んでください!」

「ありがと……」

弱々しくペットボトルを受け取った社長は、やはり弱々しくそれに口づける。

あ、間接キス……とか今はどうでもよくて、自分の好きなものに付き合わせてしまった挙げ句、社長の体調に全然気が付かなかった自分が情けない……。


「あの、本当にすみませんでした。途中で具合悪くなったのに、最後まで私に付き合ってくださったんですよね」

深々と頭を下げると、社長も少々慌てたような様子で「そういう訳じゃないよ」と答える。

ゆっくりと顔を上げると、少し困ったような、でも微笑んでくれている社長と目が合う。

「別に無理して付き合ったとかじゃないよ。まあ、最近のジェットコースターがこんなに猛スピードの急転直下とは思わなかったけど。あ、このデータはそのうち仕事にも活かせそうだ」

「仕事の話は今はいいですから。あの、次からは、具合が悪くなったらちゃんと言ってください。黙っていられたら、その方が心配しますから」

「心配掛けたくないから黙っていた訳じゃない」

「じゃあどうして言わなかったんですか?」

「……俺だけジェットコースターで酔った、なんて言うの恥ずかしいだろ」


……思いがけない、社長らしくない、でもどこか可愛いその発言に、私はついーー笑ってしまった。


「こら、笑うな」
< 85 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop